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「翼くんだけじゃないよ。千夏だって、私の大好きな人なのに!
千夏は私のこと、友達だと思ってなかったんだね」
「そんわけないでしょ。
私だって、もちろん久美子のこと大好きだし、友達だと……」
千夏は固い声で言った。
嘘じゃないはずなのに、胸がざわざわする。
心からの声でなければならない言葉が、まるで空っぽの空き缶のように、軽い音を立てて転がっていくような気がした。
「嘘つき」
久美子はもう声を荒げようとはしなかった。
ただ淡々と言葉をつなげていく。
それがかえって、彼女の怒りを表しているように思えた。
「友達だなんて、もう絶対に言わないで」
「ねえ、久美子……」
「最低」
低く囁くような声に、千夏は息をのんだ。
それから、もう一度久美子の名を呼んだものの、その声が彼女に届く前に、通話は終了させられていた。
後に残ったのは、通話が終わったことを知らせる機械音ばかり。
何の感情もなく、一定の間隔を保って鳴り続ける音が、千夏の頭の中をグルグルと回っていった。
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