11人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふぅ……」
ビルの地下、朽ちかけた階段を登りながら彼は頭に被ったヘルメットに手をかけた。
その下から出てきたのは、口も鼻も形だけで、目以外は全て黒に塗られた、年齢もわからない異様な顔。
「まさかこんな目に遭うとはな……」
そう言って目を細める、簡単な任務だった、対して珍しくもない、偵察任務中の最下級兵が二人、消息を絶っただけの話しだ。
念のため、ということで向かったがどうせ冒険者気取りの下級勇者が迷い込みでもしたんだろうと高をくくっていた。
「余りにも不自然だ、あのレベルの堕天かいたなら被害はもっと大きいはずだ」
堕天とは、ヒーローとしての力を与えられておきながら、役目を放棄した人間の総称。
欲を満たすため、戦うのが怖い、更には厨二病、様々な理由があるが、組織には勿論、ヒーローにまで狙われるため、その生存率は非常に低い、それ故に生き残った者達の力は凄まじく、最低でも部隊長レベルの力を持っている、と言われている。
そんな相手が3人、いくら偵察といえど被害者が二人ですむはずがない。
「……考えていてもしょうがないか」
「時間は稼いでやる、あとは頼んだぞ」
身を屈め、鎖骨の辺りにある二つの輪に嵌まった朱色の球体に手を添え、静かに呟く。
「獣人化(ビーストアウト)」
ーーーーーーーーーーーーー
所々に瓦礫が覗く、植物の影も見えない砂漠の様な場所、そこで、一人の青年が黒いスーツを傘の様に広げながらヨタヨタと歩いていた。
「あぁ……此処はどこだ」
彼の姿はいたって普通、顔中真っ黒でもなければ、ヘルメットもない、少し日本離れした高い鼻と整った顔立ちを除けば、仕事に疲れたサラリーマンのようだ。
「通信機は使えない、仲間もいない、おまけに食料も尽きた」
「……泣くぞ?」
一体誰にたいして訴えているのか、当然、言葉を返す者はいない。
「うっくっ……うっ」チラッ チラッ
こっち見んな。
「くそ……血も涙もねぇ……ッ!?」
突如、地面を揺るがす轟音が響く。
「おお!? な…何だ!?」
さっきまでグダグダ言っていた人間とは、思えない速さで瓦礫の影に飛び込み辺りを見渡す。
「今のは……人か!?」
元々バカなのか、空腹によって判断力が鈍っているのか、ともかく彼は
危険かも、などとは全く考えずに
走り出した。
「イィィヤッハァァァァッ!!!」
袖から見えた彼の拳は、
黒く輝いていた。
最初のコメントを投稿しよう!