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「ったくどいつもこいつも…正月だからって浮かれやがって…」
「いいじゃないですかお正月位…」
江戸かぶき町にある、とある神社は正月ということもあって沢山の人がごった返していた。
空は新年の初めを告げる様な雲一つない晴天。頬にあたる風はまだ冷たいがお妙は今までの初詣とは少し違う気持ちでこの神社に来ていた。
「初詣ねぇ…」
「お願いすることは決まってるんですか?」
今までと違うのは気持ちだけでなく、隣にいる人も今までと違っていた。いつもならば唯一の家族である弟と共に来ているのだが今年は違う。
弟が働いている万事屋銀ちゃんのオーナーである坂田銀時が今年は隣にいるのであった。
白髪天然パーマに死んだ魚のようなやる気のない男。仕事もしないわ酒は飲むわ人に迷惑だけを掛けているようなそんな駄目人間に妙はいつの間にか惚れていた。
(まさか銀さんと初詣に来ることになるなんて。)
隣にいる銀時をちらりと見据え心の中で小さく溜息を付く。
実のところ妙と銀時は恋仲ではない。妙の片思い止まりなのであった。思いを伝えることも出来ず、ずっと思いを胸の奥深くに留めていた。
「おい、お妙!」
そんな事を考えていると銀時が20m位先に進んでいた。
「え、ちょ…銀さん!」
「そこから動くなよ!今行くから!」
言われた通りお妙が動かずじっとしていると直ぐに銀時は人ごみをかき分け目の前に現れた。
「何してんだよ…まったく」
「す…すいません…」
背の高い銀時に怒られ小さい子供の様に肩をすくめしょんぼりとするお妙を見てわずかに口角をあげ、ホレ。と差し出したのは妙よりも大きな手だった。
「え?」
「ホレ。またはぐれたら大変だからな」
戸惑うお妙の手をしっかりと握り境内に向かい人をかき分け進む銀時の背中を見つめ、お妙は頬がどんどん熱くなっていくのを感じた。
(新年早々こんな事って…)
嬉しい反面驚きが隠せなかった。
「おぉ。こんなにでっけぇのか」
「あら?知らなかったんですか?」
大きな赤い境内を見上げ銀時が感嘆の声を漏らす。その横顔を見ていると、その視線に気付いた銀時が妙の顔を覗きこんだ。
「どうしたお妙」
「いえ・・・」
「来年も…来るか。」
銀時が小さく呟く。
「そうですね。来年は新ちゃん達も一緒に…」
「いや。」
「え?」
「来年もお前と二人で…だな」
―来年も貴方と二人で。
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