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はずだった。
無惨にも殺された若者が死してもなおその全てをもって大切な人のために、自分を殺した相手と共に地獄へ堕ちようと。
その悲しくも強い決意で沈んでいく、誰も救えないはずの彼を。
彼の姿が堕ちる間際只人にも見えたのは、偶然か必然か、はたまた神様の悪戯か、俺にも分からない。
ただ、その時響いた声は、確かに震えるほどの、奇跡だったのだ。
「夕悟?」
志波先生の右手からスマホが滑り落ち、床に転がる。
通話画面がふつりと消えるのに、俺は呆然としながらあぁ拾わないと、だなんてとてもどうでもいいことを考えていた。
地獄へ堕ちたかと思われたU、いや夕悟、は志波先生の前に立っていた。
その手にロープはなく、少し困ったように、微かに微笑んでいた。
仕方ないな、とでも言いたげな表情で、夕悟は口を開いた。
「お前って奴は、本物の馬鹿だな」
「……ほ、本当に、本当に夕悟、なのか」
「おうよ、天下無敵の夕悟様だっつーの。16年も前に死んだってのによくまぁ名前呼べたな。もう忘れちまったかと思ったぜ」
「そ、そんな訳!ないだろ、ないよ、馬鹿じゃねーの、本当、馬鹿、馬鹿だな、お前、俺がどんな気持ちで今まで…!」
「おいおい、俺の台詞まんま返してくるんじゃねーよ。語彙力ねーな教師だろうが」
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