「いただきます」

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二人の声を聞いてから、玄関で靴を履いて外に出る。 行ってきます、行ってらっしゃいのやり取りが、私の朝の楽しみ。 皆にとっては何気ないこと、だけど、私にとってはそれが大事なこと。 (…胸の中、温かい。嬉しい、かな) 駄目だ、涙腺が緩くなってきた。 まだ一緒に暮らして一ヶ月も経ってないから慣れない。 独りぼっちの世界の感覚が消えきらない。 電車に乗って揺らされてる中、いつも毎日が夢な気がする。 本当は全部嘘で、私はまだ独りぼっちの世界にいる。 林汰が、柑菜が、両親が、バラバラになったまま。 「待って…ッ、やだよ…っ、一緒にいようよっ、何でさよならなのっ、行かないでよ!!私達、家族なんでしょ…!!」 バラバラになった日の、私が家族に向けて最後に言ったこと。 思い返せば、あんなに感情をぶつけたのは初めてだったと思う。 ろくに顔も会わせない両親が居るのに、そんな感情をぶつける勇気は、私には無かったのだから。 『次はー春日駅ー春日駅ー。左側の扉が開きますのでー、ご注意下さいー』 目的の春日駅は、今日も通勤ラッシュで人が多い。 そんな中をなんとか歩いて改札口に向かう。 (毎度毎度思うけど…ここは安売りバーゲン並に人多過ぎ!) 改札口に切符を通して、通勤ラッシュの嵐から逃げる。 「相変わらず大変だなあ…、柚子の朝は」 「あ、おはよトミー」 「うん、おはよう」 友達のトミーが駅の影からひょこっと出てきた。 因みにトミーとは、富岡美緒(とみおかみお)の渾名。 私が勝手に決めた。 「トミー、今日科学ってあったっけ?」 「あるけど、また忘れた?」 「いえっす。後で教科書貸してね」 「良いけど、いい加減忘れ物無くしなよ」 「えー、トミーの鞄何でも入ってるから無理かも」 「私の鞄は四次〇ポケットじゃないんだけどな」 (ドラ〇もんと同じ誕生日の人が言ってもなぁ…) 「ドラ〇もんと誕生日が一緒だから何だ?」 「テレパシーだ…!」 「顔に出過ぎなんだよ、柚子は」 「ならトミーには、嘘は言えないなー」 「言わなくてよろしい」 「はーい」
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