新入りという名のもとに

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この時間に爪切りをしたりとか、 願い事があれば担当台のところま で行く。 会話が出来ないが皆、眼で合図を 送り、眼と眼で会話していた。 俺はテレビを見ていたが、内容が 頭に入ってこない。 当然だ。 何から何まで初めての経験でそれ にこれからの事を想像すると、 悠長にタモリなんか見てる場合で はないだろう。 タモリに眼を合わせながら工場を 観察していた。 新入訓練工場は10平米くらいの大 きさで小さい。 入って目の前に担当台があり 担当台の前に俺たちの席が並んで いる。 入り口から見て、左奥にロッカー がある5平米くらいの部屋がありそ こで配食をしたりする。 配膳室みたいなもんだ。 工場の配置を確かめていたらペヤン グが、テレビを切った。 早い。 休憩が終わりだ。 時間にして20分くらいだろうか? 休憩が終わり担当台の前に二列横隊 に並び点呼をとる。 人員の確認がとれたら、ペヤングが 「役席にぃぃ着けぇぇ」 と叫ぶのでそれに合わせ 「いっち、にぃさん」 と声を出して自分の持ち場に着く。 着いたらペヤングの 「よし」 で着席。 そして 「作業始めぇぇ」 で手を動かす。 この点呼から着席までの流れはどこ の工場でも必ずある。 訓練工場は、午後になると松本の 幹部職員がきてそれぞれのテーマ に沿って刑務所での生活に必要な 講話をしてくれる。 幹部だから話す機会はあまりない。 この日は、処遇部長が来た。 処遇部門のトップで実質No.2だ。 社会で言えば勿論、部長だ。 刑務所の運営は、ほぼ処遇部長が 支配している。 所長と言う刑務所の天皇がいるが 御飾りに過ぎない。 最終的決定は、所長と言う天皇だ が現場にまず首を突っ込んでこな い。 だから懲役の処遇を決めるのは、 処遇部長になる。 松本の処遇部長の刑務官の階級は、 (矯正副長) 警察官で例えるなら警視にあたる。 もっと解りやすく例えるなら警視 と言えば中小規模の警察署の署長 クラスだ。 だから刑務所ではお偉いさんに当 たる。
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