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離脱届けとは、暴力団に所属して
いると仮釈放が貰えないから組織
を脱退しますと言う誓約書みたい
なものだ。
出所しても組織に戻るが、こうし
て刑務所にいる間は仮釈放貰って
早く出たいがために離脱届けを出
す人間がいる。
これを偽装離脱と言う。
ヤクザでも早くでたほうが勝ちだ
と思う人間と仮釈放なんていら
ねぇよ満期上等だよ。
と思う人間に刑務所では分かれる。
どちらが正しいか解らないが離脱
届けを書いた人間は一応、現時点
ではヤクザではないので組織の話
とか進んですると嫌われる傾向が
ある。
ゲンキさんは、組のオヤジが早く
帰って来いといっているらしく
組の方針で仮釈放貰って帰るら
しい。
俺と同じ組系列だから共通の親分
の話しがあり話がこの人とは馬が
あった。
ゲンキさんと話していると
衛生夫のモリタさんがきた。
衛生夫とは工場の人間の洗濯物を
管理したり配食したり生活面の
仕事をする人間だ。
こういった仕事に就く人を立ち役
と呼ぶ。
工場は基本、座作業で座りながら
黙って黙々と作業する。
立ち役は文字通り立って仕事して
自由に工場内を動き回れる。
それに多少のおしゃべりもオヤジ
は目をつぶる。
座作業している人間から見れば羨
ましいポジションだ。
その他の立ち役は作業係、作業補助
がいる。
モリタさんが
「俺と同じ部屋だから宜しく」
と言ってきた。
俺も「宜しくお願いします」
と返す。
一通り事情聴取を受けて工場の
説明を聞いたらヤスタケのところ
に戻る。
ヤスタケに
「お前アルプス体操
覚えてきたのか?」
と質問され
「はい」
と答えたらヤスタケに工場の入り
口に促され
「踊れ」
と言われた。
俺は一人で大きな声を出して
踊った。
時々間違っていたらヤスタケが
マンツーマンで指導する。
「完璧になるまでやってろ」
とヤスタケに突き付けられ、
一人で汗だくになりながらも練習
していた。周りの工場の人間から
の視線を感じた。
恥ずかしいが我慢だと堪えた。
ヤスタケは俺の事など気にせず
担当台で自分の仕事をしている。
「なんだ?あのオヤジ
なめてんのか?」
と、はらわたが煮えくりかえっ
がここは刑務所。
堪えた。
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