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俺の対面に座っている医者は
四十代後半といった男性で外見
は役所の窓口にいるような
オーラが感じない中年親父
だった。
「わざとらしく仕事が出来ない
ように
みせているのかも知れない」
そう俺は警戒して椅子に
腰かけた。
「‥‥‥‥具合はどう?」
医者が俺に問いかけた。
「軽い挨拶がわりのジャブ
みたいものなのか?」
どう返答するか迷ったが素直に
俺は答えた。
「垂れ流しがいて臭いし、
夜中に演説しているかのように
ブツブツ叫ぶ輩はいるし、
食べも眠れも出来ませんでして、
体調はよくもありません」
そう言ったら、医者が
「演説?なにそれ?
君だけに聴こえるの?」
と、俺を疑い始めた。
「ま‥‥まずい。違う‥‥違うよ」
内心で俺は焦り
すぐに弁解した。
「い‥‥いや、違います。
これは夜勤の職員にも当局にも
確認して下さい。
客観的事実として明らかに
聴こえるんです。
‥‥幻聴じゃありません‥‥幻覚、
幻聴はありません。
生まれてこの方、
一切ありません!」
少し興奮してしまった。
「まあ、いいか」
と自分で自分に納得させる。
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