新入りという名のもとに

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土曜日になった。 土日は免業日と言って作業がなく 1日中部屋に缶詰だ。 免業日は、起床も30分遅い。 そして9時からラジオが入る。 ラジオの選曲は官が決めるが松本 はFM東京系が多かった。 私物がまだ検査のため洗面用具し かなく、本も官本だったので ラジオを聴きながらぼんやりして いた。 「新聞」 ――突然聞こえたので食器口を見 たら新聞がありオヤジが 「新入か?だいたい10分くらいだ からな閲覧時間は」 と言い残し消えていった。 新聞は読売で、社会面、スポーツ 面と見てたら 「終わりだ」 とオヤジがきた。 新聞もまともに見れないのが 刑務所だ。 「なんだあのオヤジ、態度わり ぃな」 とぶつぶつ1人で文句言いながら 官本読んでたら昼飯になった 昼はパン食だった。 懲役にパン食は人気がある。 あまり口にできないからだ。 そして、汁物は、汁粉だった甘い 物に飢えている懲役にこれも人気 の一品だ。 美味さを噛み締めながら頂いた。 あのパンと汁粉は一般社会の人間 なら食えたもんではないと思う。 ただあの美味しさを越える味に俺 はどんな高級店に行こうが二度と 巡り会う事はないと思っている。 人間の欲を抑えに抑えた末にそし てあの環境だからこそ味わえる味 だと今になって思う。
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