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数日後、向かいの部屋と上の部屋の者が居なくなった。
聞くところによると、ワイシャツの男に、どこかへ連れて行かれたのだ。
ただ、私を連れてきた、あの汗かきのおじさんではないようだ。
なんかやる気のなさそうな、めんどくさがりのような感じのする男らしい。
とてもいやな感じがした。
そしてその日。
私の友達とは反対側の隣の部屋にいる者が、うつろに外を見つめ、吐き捨てるように言った。
「あ~あ、俺も後二日の命か」
「……えっ」
思わず聞き返してしまった。
「ん、あ~お嬢ちゃんは最近ここに来たんだったな」
「あ、はい。……あの、後二日の命っ」
「おーナイーブな質問してくれるじゃねえか」
すべて言葉を発する前に、返されてしまった。
片目を怪我してる上、低めの声だったので、いくらか圧倒される。
「ここはな、外でなにもできなくなってる奴を連れてきて、三ヶ月間だけ親代わりを探してくれるっちゅー施設なんだよ」
「三ヶ月間……」
心臓が、とくんと、鼓動した。
「もし……」
その先は、言ってはならない気がした。
体のどこかから、拒絶的な感覚が出てくる。
しかし、それでも押さえきれなかった。
「もし、三ヶ月間で親代わりが見つからなかったら、どうなるんですか?」
「へへへっ、そりゃあ……」
「へっ、安楽死だよ」
非常に、あっさりとしていた。
それなのに隣人ときたら、柔らかい笑顔だった。
「怖くないんですかっっ」
少し、声が荒くなる。
「死ぬんですよ?」
「いゃ、今更死ぬって言われてもなぁ。ここに来るまでだって何度もやばくなったときはあったし……。ここに来てうまい飯も食えたし、路上で苦しんでくたばるより、楽に死ねるってんだから良いんじゃないか?ははは」
彼の言葉は、至極当たり前で、途轍もない説得力があった。
しかし私には、どうしても、笑うことはできなかった。
三日後、隣の部屋は空き家になった。
そしてその次の日、隣の友人も居なくなった。
しかし、彼のそれとは違い、彼女は、優しそうな若い女の人に抱かれていったのだ。
私は、最後に友人の顔を見れなかった。
両隣で、運命が違った。
それだけのことなのに。
それを目の当たりにしてしまった私は、やはり、簡単に笑い飛ばすことは出来なかった。
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