『苦い雨は枯れた。』

5/7
前へ
/7ページ
次へ
数日後、向かいの部屋と上の部屋の者が居なくなった。 聞くところによると、ワイシャツの男に、どこかへ連れて行かれたのだ。 ただ、私を連れてきた、あの汗かきのおじさんではないようだ。 なんかやる気のなさそうな、めんどくさがりのような感じのする男らしい。 とてもいやな感じがした。 そしてその日。 私の友達とは反対側の隣の部屋にいる者が、うつろに外を見つめ、吐き捨てるように言った。 「あ~あ、俺も後二日の命か」 「……えっ」 思わず聞き返してしまった。 「ん、あ~お嬢ちゃんは最近ここに来たんだったな」 「あ、はい。……あの、後二日の命っ」 「おーナイーブな質問してくれるじゃねえか」 すべて言葉を発する前に、返されてしまった。 片目を怪我してる上、低めの声だったので、いくらか圧倒される。 「ここはな、外でなにもできなくなってる奴を連れてきて、三ヶ月間だけ親代わりを探してくれるっちゅー施設なんだよ」 「三ヶ月間……」 心臓が、とくんと、鼓動した。 「もし……」 その先は、言ってはならない気がした。 体のどこかから、拒絶的な感覚が出てくる。 しかし、それでも押さえきれなかった。 「もし、三ヶ月間で親代わりが見つからなかったら、どうなるんですか?」 「へへへっ、そりゃあ……」 「へっ、安楽死だよ」 非常に、あっさりとしていた。 それなのに隣人ときたら、柔らかい笑顔だった。 「怖くないんですかっっ」 少し、声が荒くなる。 「死ぬんですよ?」 「いゃ、今更死ぬって言われてもなぁ。ここに来るまでだって何度もやばくなったときはあったし……。ここに来てうまい飯も食えたし、路上で苦しんでくたばるより、楽に死ねるってんだから良いんじゃないか?ははは」 彼の言葉は、至極当たり前で、途轍もない説得力があった。 しかし私には、どうしても、笑うことはできなかった。 三日後、隣の部屋は空き家になった。 そしてその次の日、隣の友人も居なくなった。 しかし、彼のそれとは違い、彼女は、優しそうな若い女の人に抱かれていったのだ。 私は、最後に友人の顔を見れなかった。 両隣で、運命が違った。 それだけのことなのに。 それを目の当たりにしてしまった私は、やはり、簡単に笑い飛ばすことは出来なかった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加