『苦い雨は枯れた。』

6/7
前へ
/7ページ
次へ
この施設に来て、一ヶ月がたった。 両隣は、空室のままだ。 友人を失った私は、毎日、外を見るか寝るかしかしなかった。 後二ヶ月しか自分の命がないと思うと、ご飯ものどを通らなかった。 すっかり、落胆していた。 一種の諦めかもしれない。 だがある日、風が心地よい日があった。 その日だけは、なんだか気分も優れていた。 ベッドに寝そべって、ごろごろするにはちょうどよすぎた。 そんな折り、部屋のドアが開けられた。 逆さまのままドアの外を見ると、あの汗かきのおじさんが立っていた。 訂正、汗かきのおじさんと、格好良さげなお兄さんが立っていた。 汗かきのおじさんは、こちらに手を伸ばした。 その手を、恐る恐るとった。 久しぶりに、誰かにふれられた気がする。 そして、お兄さんに私を抱かせた。 誰かに初めて抱きしめられた気がする。 「かわいいなー。ねぇ、俺んとこ来なよっ!」 私には、訳がわからなかった。 汗かきのおじさんは、なんだかにこにこしているし。 「良かったな」 おじさんにこんなことも言われたし。 「よし、今日からお前はティアだ」 「じゃあ、よろしくお願いしますね」 おじさんに、頭をなでられた。 何とも微妙な気分になったので、体をよじった。 二人に笑われた。 どうやら私に、親代わりができたようだ。 周りの者が、全員私を見た。 一ヶ月前の私のような気分なんだろうかと思った。 運命は、刹那的で、そんな運命に、私は生かされた。 嘘。 私は、優しそうな感じのするお兄さんに、拾われたのだ。 * * *
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加