『苦い雨は枯れた。』

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シュークリームのような入道雲が、遠くの真っ青な空に悠然と浮かんでいる。 八月真っ只中の今。 私は、窓辺に座る。 珍しく蒸されるような湿度はなく、からっとはれてた今日。 開け放たれた窓からそよそよと吹いてくる風が、前髪を揺らした。 まぶしさに細めた眼。 「私は今日、死ぬはずだった」 今日が、私があの建物の中に行ってから、ちょうど三ヶ月だった。 だけど、こうして私は生きている。 生きる意味。 そんなもの、少し前まではなかった。 だけど、今はある。 静かに訪れる時限爆弾。 それを解いてくれた彼が、笑っていられるようにすること。 私を、そうしてくれたように。 神様の悪戯。 私は、もうあの公園に戻ることはないだろう。 あの時舐めた苦々しい雨粒は、もうどこにもなかった。 彼がくれた、温度。 「おぉティア、ここにいたのか」 私の、名前。 彼の方を向いた。 頭をなでる、大きな手。 「にゃーっ!」 あの暗い日とは違った明るい声で鳴いて、私は飛びついた。 end.
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