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「ちょっと、そこのあんた!」
ブルは道行く男性を捕まえると、
「バス停を探してるんだが、この近くにあるかい?」
すると男性は答える。
「あんた余所から来た人かい?バス停ならそこにあるよ。あの汽車(チーチョー)と書かれた看板さ。」
どうやらチャイニーズの間ではバスの事を汽車と言うらしい。
「ああ…そうなのか。これはすまんね。ありがと。」
軽く礼をして二人は案内されたバス停へと向かう。
「……流石にスラム行きのバスは走ってないか……。」
だが、スラムに一番近いバス停からは、歩いてもそれ程時間はかからないようだ。
(腹が減ったな。)
ブルの隣でレッドが腹を押さえて空腹を示している。
「お、腹減りか?そうだな……バスが来るまでまだ時間もあるし、どこかそこら辺で食い物でも買ってくるか。」
一方その頃、スラム街では……
人通りの無い通路を息を切らして走る人間の男が一人。
「くそっ!畜生っ!奴は一体何者なんだ!」
何者かに追われている様子で、必死に走る男だったが、どうやら駆け込んだ先は行き止まりだったようだ。
背後でゆっくりと歩み寄る足音が聞こえる。
男は振り返り、壁に背を付けて恐怖の表情を浮かべている。
男の前に現れた追っ手は、左手にステッキ持ち、シルクハットにスーツ姿と、紳士風の出で立ちをしていた。
ブルとレッドが追っている、ジェントルマンと言う仮名で手配された正式名称不明のサイボーグだ。
「このコロニーは無駄に広くてね、たかが三人始末するのに二日も掛かりましたよ。後は貴方と“あの娘”だけです。アンダーソンさん。」
アンダーソンと呼ばれた男は震える声で答える。
「まさか……研究所の回し者か……!!」
「それを今から死ぬ貴方が知ったところで仕方の無い事でしょう?」
ジェントルマンは左手のステッキを持ち変えると、右手で持ち手を握る。
仕込み杖だ。
ステッキの中から姿を現した刃がアンダーソンに向けられた。
「ま、待て!俺達が持ち出した研究データは“あの娘”も含めて全て処分した!」
「よろしい。この研究は外に漏らすわけにはいかないのでね。では、最後のデータは私が処分して差し上げましょう。」
「そ…そんなものは何処にも……!」
するとジェントルマンが人差し指で自分のこめかみをトントンと突つきながら言う。
「ありますよ。貴方の“ここ”にね。」
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