CHAPTER:1

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ブルとレッドは、バスを降りると、スラム街に向かって歩いていた。 (窮屈だった……。) 「総人口13億人を舐めちゃいかんな……。」 バスの車内は、これでもかと言わんばかりに大勢の人達で鮨詰め状態だった。 とてもじゃないが、座席に座れるような状況ではなく、小柄なレッドに関しては途中のバス停で降りる人達に押し流されて、何度も途中下車しそうになっていた。 そして、そのバス停でも恐ろしい程の人数が乗車するので、目的地で降りるのにも一苦労したと言うわけだ。 しばらく歩くと、高層ビルの建ち並ぶ都会の喧騒からは、遠く離れて、どこか寂しげな路地に出ていた。 ここまで来ると、ほとんど人の姿は無く、飼い主を亡くしたのか、それとも最初からいなかったのか、野良の人工猫達が通りの片隅で集会を開いていた。 一斉にこちらへ向けられた鋭い眼光が、この先がどう言う場所なのかを物語っているようだ。 「レッドさんよ。お前、どこか楽しんでないかい?」 「……そんなことないよ。」 レッドは元々、地下闘技場で見世物として闘う事だけを目的として育てられたアンドロイドだ。 (実は少し楽しんでたりするが言わないでおこう。) この、今にも争いが起こりそうな、張り詰めた空気が、どこか懐かしいのだろうか。 そして、更に歩くと、異様な光景が姿を現す。 無造作に、増築に増築を重ねたような巨大な建造物。 その、今にも崩れ落ちそうな程に朽ち果てた“それ”は、来る者を拒むかのように排他的かつ退廃的な雰囲気を放っていた。 「さぁて、こっからがお仕事タイムだ。気合い入れて行こうぜ!」 「ああ。」 このスラム街は、街そのものが巨大な城砦になっており、巷では“あらゆる犯罪の巣窟”や“完全な無法地帯”と呼ばれていて、現に指名手配中の凶悪犯も数多く潜伏している。 「よう、あんたら……この先は余所者が立ち入っても良いような場所じゃあないぜぇ……まぁ、命が大切じゃねぇってんなら、話は別だがな……ヒヒッ。」 城砦の門前で酒瓶を片手に、壁にもたれるようにして腰を降ろしたホームレスの男が声を掛ける。 おそらくは警告のつもりなのだろう。 二人は男を無視すると、中華コロニーの暗黒面であるスラム街へと足を踏み入れた。
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