5人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
とある火星のマンションの一室に、電話のベルが鳴り響く。
(電話に出なきゃ……めんどくさいな。えーっと、確かここを押すんだっけ?)
この世界で一般的に使用されている電話はヴィジフォンと呼ばれ、本体から展開される空中ディスプレイに通話相手である、ドレッドヘアーと顎から垂れ下がる髭が特徴的な黒人系の老人が映し出される。
(おぉ……繋がった。)
『お前さんが電話に出るなんて珍しいの、レッド。ブルはどうした?何処か出掛けたのか?』
この老人は、デバッガー達にバグの情報を提供している情報屋で、ブルとレッドが毎回お世話になっている人間だ。
「ブルならウンコだよ。」
『これこれ、下品な言葉を使うでない。』
(クソよりは上品だと思うぞ。)
『実は…ここのところ、お前さんらに、まともな仕事を紹介してやれなかったじゃろ?だから、たまには誰にも紹介してないような、でかい仕事を回してやろうと思っての。』
(でかい仕事?)
トイレの方から水の流れる音が聞こえると……
「聞いたぜボブ爺さん。でかい仕事っつってもヤバイのは勘弁な?」
ベルトをカチャカチャと鳴らしながらブルが姿を現す。
(ズボンぐらいちゃんと履いてから出てこいよバカ。)
レッドが心の中で毒を吐く。
『なぁ~に、ただ掛けられた賞金が“でかい”と言うだけで、仕事自体は大したもんじゃないよ。ただサイボーグを一体捕獲するだけ。お前さんらなら、お茶の子さいさいじゃろ?』
「ほんとにそれだけか?」
ブルが不安げに聞く。
『まぁ……その~、何じゃ?何かあるとしたら、賞金の出先が政府では無く匿名の個人である事と、あと、高額の賞金が掛けられてる理由が分からんって事ぐらいじゃな。』
「どう考えてもヤバイ臭いがプンプンするじゃねぇか。」
「オレはやってもいい。」
『ほっほっほ!お前さんよりレッドの方が頼もしいな!』
「レッドより賢明なだけだよ。つーか、お前……マジでやるのか?」
(わりとマジだ。)
『まぁ、たまにはヤバイ仕事も悪くないじゃろ。弟子の修行だと思って付き合ってやんな!』
(オレは弟子じゃない。相棒だ。)
「この爺さん、ヤバイ仕事って言い切りやがったよ……。」
『こりゃすまん……口が滑ったわい。それじゃ、報告を楽しみに待っとるよ。』
最初のコメントを投稿しよう!