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マンションの自室から出て、ブルが玄関の施錠をしていると……
「ちょっとブルさぁん、調度良かったわぁ。」
割腹の良い厚化粧の婦人が、激臭とも言えるような香水の匂いを振りまきながら現れて、思わずブルの両肩がギクリと跳ね上がる。
このマンションの管理人だ。
「や…やぁ、マダム。ご機嫌はいかが?」
ブルは顔面に笑顔を無理矢理貼り付けたような表情で言う。
レッドも、この婦人から漂う匂いが苦手なようだ。
顔をしかめている。
「ご機嫌はいかがも何も超ナナメよぉ。あなた達がいつまで経っても家賃払ってくれないんだからぁ。いい加減出て行ってもらってもいいのよぉ。」
婦人が両手を腰に当てて眉を吊り上げながら言うと、やはりその話か、とブルは苦笑いを浮かべる。
「いや、ほんとすまん!今回の仕事がうまく行ったら、まとまった金が入るから、その時にまとめて払うって!だから頼む!もう少し待ってくれ!この通り!」
顔の前で両手を合わせて、頭を下げる。
お願いのポーズだ。
「もぉ~。レッドちゃんはこんな大人になったらダメでちゅよぉ~。」
(“ちゃん”はやめろバカ。)
婦人はレッドの頭をなでるが、当のレッドはこの上無く迷惑そうな表情を浮かべている。
それどころか、香水の匂いを吸わないように息を止めているのだろうか、プルプルと震え、涙目になっている。
婦人の香水は、香水そのものの匂いが悪いのか、単に量が多いのか、嗅覚神経を突き刺すような匂いで、酷い時は嗅覚では無く痛覚に訴える程だ。
どちらにしろ、この婦人の嗅覚は最早、正常に機能していないのは確かだ。
「………っ!」
婦人が離れた事で、ようやく呼吸が出来るようになったレッドがゼェゼェと息を切らしている。
立ち去る婦人の背中を眺めながら、二人は大きく肩を落として、ホッと安堵の溜め息をついた。
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