6人が本棚に入れています
本棚に追加
マンションのエントランスから出て、二人は駐車場へ向かうと、簡素な屋根が設けられた、電動サイクルやバイクの駐車スペースの一角に、ブルのスカイモービルはあった。
ブルがシートに跨ると、レッドはサイドカーに乗り込んでシートベルトを絞める。
キーを差し込み、反重力エンジンが静かに回転すると、二人を乗せたスカイモービルは僅かに宙に浮く。
ブルは足で地面を蹴りながらバックで駐車スペースから滑るように出ると、ハンドルを切って向きを整え、右手のスロットルレバーを回して勢い良く走り出した。
アスファルトで舗装されたマンションの敷地から、赤茶けた火星の大地に出ると、ハンドルを手前に下げ、スカイモービルが高度を上げる。
「空が綺麗だ。」
レッドが呟くと、
「ああ、気持ちの良い青空だ。」
ブルが相槌を打つ。
この、目の覚めるような青空は、火星の夕焼けだ。
火星では、極めて微細な砂の粒子が空気中を漂っていて、これが赤い波長の光を散乱する為、日が傾きかけると赤い光は全て、この大地の向こう側で散乱し、青い夕焼けが見えるのだ。
逆に日中の空は赤い。
赤い大地に立ち並ぶ白いビル群と、青い空の境界を飛ぶ機械鳥の群れと並ぶようにして火星の空を駆ける一台のスカイモービル。
レッドが遙か頭上で群青色に輝くアースライトを指さす。
「……あれが地球?」
「ああ、俺達の祖先が産まれた星だ。」
すると、向かいから同じ高度で走ってくる二台のスカイモービルが姿を現した。
ライダー達が、すれ違い様に同時にシートから立ち上がり、人差し指と中指を立てた左手を空に掲げる。
これは、火星のスカイモービル・ライダーの間で、よく使われる挨拶だ。
ブルも立ち上がると、同じ様に挨拶を返した。
レッドはそれを“だっさ…”と言いたげな目で見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!