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「竜之介!!」
ある日の昼下がり。
休日と言う事もあり、気持ち良く寝息をたてていた竜之介の耳に、それを妨げる程の大声が響いた。
声の主は高峰房江。
竜之介の母親である。
「ったく…何だよ…。」
「あんたに手紙が来てるわよ!」
「手紙ー?
どうせ塾やら何やらの勧誘だろ?」
昨日徹夜した分、睡眠はまだ足りない。
少しでも早く二度寝したい所だが、その後の母親の言葉に、竜之介は一瞬固まった。
「椿ちゃんからよ!
懐かしいわねー。」
「椿!?」
ベッドから転げ落ち、体を痛めたが、お構いなしにドアを開き部屋を出る。
「椿ちゃん、どうしてるのかしらねー。
小さい時にお父さんお母さんが亡くなってお爺さんの所に行く事になったのよね。」
そう、俺と椿が知り合ったのは幼稚園の頃だ。
あの頃は華夜と俺と椿はご近所さんで、幼稚園でも家でもよく一緒に遊んでいた。
そんな椿が、母さんの言う通り両親を亡くして祖父の家に行ったのは小学校低学年の時だった。
勝ち気で男勝りだった椿も、その時ばかりはずっと涙を流していたのを鮮明に覚えてる。
思えば、椿が泣いているのを見たのはあの日が初めてだった。
それを見ていた俺も幼いながらに、両親を失う悲しみがどれ程大きい物なのかを知った…。
自分もその時、父親がずっと家に帰ら無かった事に孤独を感じていた。
でもそれよりも彼女は苦しいんだなと知ったんだ…。
「仲良かったもんねー。
あんた。」
「うっ…うるせーよ。」
「でも、前に手紙貰ったの随分前じゃない?
何かあったのかしらね?」
「確かに…。
まっ…まぁ部屋で読んで見るよ。」
「あら。
私には見せてくれないの?」
「当たり前だろ!」
それだけ言って部屋に入る。
「ふぅ、あの子もシャイねー…。
誰に似たのかしら…。」
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