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「覚えていらっしゃるとは思いますが、この先はいくつか分かれ道がございます。三年ぶりということで、お迷いになられてはいけないとお迎えに参上したのですが──ご迷惑でしたか?
」
「いえ、正直有難いです。分かれ道のことはともかく、一人で歩いていると時間が長く感じられて……ちょうどうん ざりしていたところなんですよ」
僕がそう言うと彼女は安心したようで、ほっと息をつく。
「そうですか、それならよかった。では、研究所へ向かいましょう。皆様がお待ちです」
早速歩みだそうと彼女がくるりと身体を翻した、その時。
動いた拍子に髪の毛が揺れて──見えたのだ。左の目から二センチメートル程の所にある小さなほくろ、所謂泣きぼくろが。
「ナナちゃん……?」
その時僕は思わず声を出していた。それは三年前、僕達と一緒に暮らしていた女の子の名前。
神になろうと足掻いた研究者達が造った、天才を越える『神の子』の失敗作。淀ヶ原 七嬉(ヨドガハラ ナナキ)──
「……」
メイド服の彼女は足を止めたが、何も言わない。こちらに向き直る訳でもなくただ無言で立ち尽くしている。
どうしよう、おかしな事を口走ってしまった。
「いや、あの、貴女の泣きぼくろを見たら昔の知り合いを思い出しまして……すみません、あはは」
僕は笑って誤魔化す。そう、あり得ないのだ。目の前の彼女が七嬉であるなんて事は。
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