──(空白)──

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「人間に生まれ持った才能なんてものは、存在しないんだよ」  僕はそんな風に、大した信念がある訳でもない、片手間に丸め込まれてしまうような薄っぺらな持論を口にした。 「どうしてそう思うんです? わたしなんかは、才能っていうのは絶対にあると思いますよ。例えばわたしはいくら努力したところで数学が出来るようになる気がしません」  彼女はそう言って目の前に置かれたアイスティーのグラスを手に取り、ストローを口元へと運ぶ。グラスの表面をなぞるように滴り落ちた雫がテーブルをわずかに濡らした。  それに合わせるように僕はアイスコーヒーを一口すすって、またも意味の無い、頭に浮かんだだけの言葉を紡ぐ。 「勉強や運動が出来るか出来ないかなんて、天賦の才と言うより人賦の才だ。周囲の環境によって後付けされた意味の無いオプションに過ぎない。天から授けられるものなんて、精々体質くらいのものなんだよ」  才能なんてものに価値は無い。そんなもの、後からいくらでも付け加える事が出来るのだから。  しかし彼女は納得がいかないらしく、まだ一杯目にも関わらず既に空となっている四つのガムシロップの容器を指先で弄びながら(指にガムシロップが付かないようつっついている。器用だ)、口を尖らせて言った。 「そんなの、才能がある人の考え方ですよ。出来る人には、出来ない人の気持ちが理解出来ないんです。空を飛び回るカラスには地面を歩くわたし達の気持ちが分からないのと同じように」
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