第一章:再会

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 具体的な研究内容を述べるとすれば、それは遺伝子操作やゲノム解析といった生命工学、つまりバイオテクノロジーや分子生物学を中心とした生命科学である。  現代の生物をミクロの視点から解析し、解剖し、解明することで新たな段階へと導く。そんな理念を掲げた彼らは、『最も神に近い人間』と言われている。  そして。  僕を含め七人の人間が“開発”され、それから数年間をそこで過ごした。  僕が今まさに足を運んでいるのは、そんな場所だった。  「全く──冗談だったとしても笑えない話だよな」  僕は、僕達は言わば二度生まれたのだ。一度はこの世界に蔓延る普通の人間として、もう一度は人類史に新たな一ページを刻む研究の成果として。  倫理や道徳なんて言葉は存在しない。あるのは唯一つ『人類の躍進』を免罪符として許された研究への好奇心だけ。  人間の体に手を加えて、ありふれた人間を次の段階へと昇華する──そんな歪んだ好奇心だけ。  僕は先程七人の人間が開発されたと言ったが。  僕達は既に人間ではないのかもしれない。  と、そんな事を考えていたその時だった。 「楢崎 吐息(ナラサキ トイキ)様でいらっしゃいますね?」  不意に前方から投げ掛けられた言葉。確認するような口調でこそあるが、同時にそれは僕が紛うことなき楢崎 吐息その人であると確信しているような様子だった。
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