TOKYO

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 トイレのドアが突然開き、今度はそこから美里と同じぐらい、二十代半ばとおぼしき女が姿を現した。その女も美里に有無を言わせぬ冷たい口調で言う。 「彼の言う通りにして。あなたを傷つけるつもりはない」  美里は再び驚かされた。その女も日本語ではなく、朝鮮語だったからだ。だがそれは明らかに韓国人の使う朝鮮語だった。発音が明らかに南の物だ。  二人がかりで部屋に美里を連れ戻し、大きな声を上げないよう念を押してから、男は美里の口から手を離した。美里は大声を上げて助けを求めるという考えはやめた方がいいと悟っていた。もし少しでもそんな素振りを見せたら、悲鳴を上げるより早くどこかを殴られて気絶させられるだろう。少なくとも男の方はその程度の事は簡単に出来るだけの、特殊な訓練を受けていると直感した。  美里は怯えきっていたが、なるべく小さな声でその二人に問いただした。まず、日本語で話す。 「あ、あんた達は何?誰?」  女の方が日本語で答えた。 「それは後で話す。ただ今は朝鮮語でしゃべって。彼の方は日本語が出来ないから」
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