TOKYO

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 そう言って、傍らに経っている男の方に目をやる。男はいぶかしげな表情で二人の会話を聞いている。確かに日本語は理解できないようだ。美里は、朝鮮語であらためて尋ねた。 「あたしに一体何の用なのよ?どうやってこの部屋に入ったの?」  男の方が静かな口調で答えた。 「こんな鍵は簡単に開けられる。俺は軍では特殊部隊にいる。実際に実戦任務についた事はまだないが」  軍?特殊部隊?なら、この男は北朝鮮の軍人?美里は頭がさらに混乱してきた。美里は女の方に視線を移す。では彼女も北朝鮮の工作員なのか?それを見透かしたように女が言った。 「あたしは大韓民国の国家情報院の所属よ。あなたの協力が欲しいの。カネモト・ミサト……いえ、キム・ミリ」  立て続けの驚愕の連続で、美里は頭の中が真っ白になった。北朝鮮人の男と韓国人の女が一緒にいる、しかも密かに自分のホテルの部屋に忍び込んで。そしていきなり自分の民族名を呼ばれたのだ。
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