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2011年3月11日、日本の東北から関東までを揺るがした巨大地震は、北関東に位置する茨城県つくば市にも強烈な揺れをもたらした。美里が大学の研究室から派遣の形で勤務していた、超電導粒子加速器研究所の新型サイクロトロンも反物質生成の実験の最中にその激烈な振動に襲われた。
幸いけが人もなく、サイクロトロンも一部が破損した程度で済んだ。だが、地震の衝撃は誰にも予測も出来なかった、信じられない現象をひき起こしていた。
サイクロトロンとはドーナツ型のトンネルの様な形の装置だ。陽子、電子、イオンなどの電荷を持つ粒子を超電導磁石でぐるぐる走らせて加速し、光の速度の何割というスピードに達したところで二つの粒子を衝突させ、超高エネルギー状態を作り出し、素粒子の性質を調査する。地震の時、そのサイクロトロンでは人工的に反陽子と陽電子を反応させ、反水素という反物質を作る事を狙った実験を行っていた。
美里が担当していたその新型は人が楽に立って歩ける程の高さがあり、美里は数人の同僚とすぐにその破損した個所へ駆けつけた。
確かに破損は深刻な物ではなかった。だが、その場所には異世界への入り口が開いていたのだ。空間がグニャリと歪んだような、直径1メートルほどの、時空の穴。そしてそれを通り抜けると、そこは大きな河のほとりの森に通じていた。
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