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「何やってんのアナタ」
玄関前に片膝を抱いて座りこむ一矢を見おろして、どことなく唖然とした面持ちで四谷が呟いた。
俯いていた一矢の顔が、声に反応してぴくりと揺れた。ことさらゆっくりと、頭上の声の主に目線を上げる。声をかけてきたのかが誰かは分かっている。わざとだ。そのことには四谷自身も気付いている。急かしそうな──あるいはどやしつけそうな息を、呑みこんで見おろす。少し表情がきつくなる。
向き合った一矢は笑っていた。微かに歪めたような笑いだった。
「何やってるように見える」
「座ってるよ、こんなトコロで」
「……分かってんじゃん」
「分かんねえよ。何でこんなトコロで座ってんだよ」
まくしたてるように四谷が切り返した。
外は細い針のような雨が降っている。ここまで雨が入りこんでくることはなさそうだったが、ここ数日の悪天候で空気は太陽の熱を削ぎ落とし、残暑の季節とは思えない気温だった。
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