83人が本棚に入れています
本棚に追加
時間を感知させない薄暗さがたちこめる、そのなかで。どうして。
「何でだと思う?」
「知るか。さっさと立てって、風邪ひくだろ!」
どこをどう歩いてきたのだろうか。一矢の髪は雨を染みこませ、僅かに乱れた線を頬にはりつかせていた。暗くてよくは分からないが、おそらくは服も濡れているはずだった。
「だって、さあ」
往生際悪く──というよりは、しぶとくからかうような口調で一矢が食い下がった。
「なくしたんだよ、鍵」
だから入れないし。そう言って肩をすくめてみせるのがなおさら苛立たしい。
「……管理人は」
「知らね。何か面倒くさかったし」
「……あのな」
「だから四谷、開けろよ」
「────」
最初のコメントを投稿しよう!