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それからというもの、清華はヨシオと会話するようになった。 清華はおもちゃの、親指くらいのサイズのアルファベットのブロックを持ってきて、ヨシオに落とす。 するとヨシオがローマ字で返事を送ってくれるのだ。 「ヨシオ、あんたってなんで水なの?」 「僕にも分からない」 色とりどりのブロックが動いて、水槽にそのローマ字が浮かんだ。 「僕は産まれる直前まではちゃんとした形の赤ん坊だった。だけど、お母さんから出ようとしたとき、体がどんどん溶けていった。頭から出たので、頭からどんどん液体に変わっていった」 ブロックが浮いたり沈んだりする。 「僕は完全に水になった。医者に命令して、適当にその辺にあった大きな入れ物に僕を注がせた。父さんにも命令をして水槽に入れてもらった」 赤のT、緑のAが水槽に沈む。 「僕はこんな風になった自分を不幸だと思った。普通の人みたいに話すことも出来ないし、学校に通ったりも出来ない。唯一楽しいことと言えば、食事くらいだ」 「でも最近は楽しみが一つ増えた」 なあに? 「姉さんと会話出来るようになった」 清華は微笑むと、「お休み」と言い、自分の部屋のベッドに足を運んだ。
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