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ない、ない!ない!!ない…
目の前には営業スマイルの男の子がカフェ・ラテの入ったカップを差し出している。
あたしはどんどん青ざめていく。
(あっ!思い出した。昨日は珍しく家に帰っからスーパーに出かけたんだ。
その時、財布だけ持って行って…だから入ってないわけだ。
困ったな~、財布ないから要りませんなんて言えないし…)
レジの前で顔を下にして考え込んでいると、声が降ってきた。
『いいですよ、オレのおごりってことで』
『へっ』
なんて声だしてんだ、あたし。
『財布ないんでしょ?』
『えぇ、まぁ…』
『はい、どうぞ』
『あっ、明日返しますから必ず!』
そうつけたすあたしにカレはにっこり笑った。あたしはうまく笑い返せただろうか…。
いつもの窓際の席に座り、一口飲むといつもの味がしてホッとする。
あっ、ありがとうって言っない気がする。ダメだな、あたし…。
一気に飲み干して席をたつ。レジの前を通ったが、カレはいなかった。
自動ドアがあく。
さぁ、1日のはじまりだ。
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