番外編・学園祭のダンディライオン(dandelion)

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「たんぽぽちゃん」 紫色のカーテンを開くとそこには小さな個室があった。 「…………」 黙って太陽の方を見る蒲公英は薄ら化粧がほどこされていて、いつもより魅力的に見える。 また、露出の多い肩が全面でた黒のドレス。それはまるで、はなばなを飛び交う黒揚羽を思わせる。 そんな彼女を目前にした太陽はあまりの美しさに絶句した。 「あ……あ、えっと…………」 水仙に助けを求めたが彼は部屋の外にいてどうすることもできない。 先に沈黙を破ったのは蒲公英だった。 クスッと小さく笑い手招きをしながら「おいで」と囁いた。 急に体温が上がり顔を真っ赤にしながら太陽は彼女の元へ素早く来た。 「あ、あの たんぽぽちゃん」 「たんぽぽちゃん」の「ん」と同時に彼女は太陽の丸いお腹を力強くつねった。 「ひうっ」 悲鳴に近い声をあげる。 昨日もこんなこと水仙にやられた。水仙ほど力は無いが精神的に勝るものがある。 「えっ何……ちょっ、ぎゃあ」 更には足をヒールで踏まれ動けない状態に。 何かおかしい、こんなのたんぽぽじゃない。そう思っていると彼女は太陽へ微笑みをむけた。 「仔豚さん、誰に口をきいているの」 コブタ…… 「たんぽぽ……ちゃんだよね……その俺、な何かし、した? お、怒ってるの…………」 頭の中で繰り返される仔豚の言葉。 とても蒲公英の物とは思えないが、あきらかに目の前にいる彼女から発せられた。 「そうね……強いて言うなら仔豚さんが私をちゃん付けで呼ぶことかしらね」 「ふぎゃあああっ」 またもや、「ね」と同時に今度は更に力を加え腹の肉をつねる 「フフフ……仔豚らしい鳴き声お上手よ」 「ふうぅ……ひ、酷いよぉ」 おえつに似た、叫びと共に何度もつねられたお腹を押さえしゃがみ込んだ。 「あらあら……そんな顔されたら、ますますイジメたくなってしまいますよ」 水仙の魔王的な氷の笑みに似た微笑み。 ――これまさかキャラ作り!? 「ひぃっ」 小さく悲鳴をあげ思わず後ろに尻餅をつく。 「なぁに、そのみっともない身体。自己管理が全然なってないわ……そんなに私にイジメられたいの?」 珍しく微笑む彼女はいつもの彼女とは別人だった。
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