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日は沈み、一日目の文化祭は終わったその帰り道。
「おい、王子せっかく俺が大金はたいて姉貴と密会させてやったのに何でそんな暗いんだよ」
薄暗い雲のかかったこの空の様に太陽の表情は暗い。
なぜならその太陽の隣を歩く蒲公英が彼を暗くさせた根源だからである。
彼女にさんざん突かれたくない事を突かれまくり、最終的にはそれもいいかも……など変態の道のりを歩もうとすらした。
「たんぽぽちゃん……実は俺のこと嫌いだったりする!?
無理しないでいいんだよ、こんなデブとなんて…………」
蒲公英のなぶり声が頭の中で何回もリピートされ涙がにじむ。
「王子に何したわけ?」
やや呆れた様に、太陽を挟んで隣にいる蒲公英に尋ねる。
すると、彼女は顔を赤くしてうつむいてしまった。
キャラになりきったとはいえ、途中から記憶がなくなるほど夢中になるなんて。
「俺……痩せた方がいいのかな……」
「た、太陽くん、大丈夫だよ。今日のことなら謝るから元気出して」
自分のみっともなく突き出た腹部を撫でながら今にも泣きそうな顔をする。
蒲公英も内心では嫌々だったのかもしれない。というか全く彼女と釣り合っていない。
――まさに、美女と野獣。
彼の心理的な打撃はとても大きいようだ。
「どうすんだよ姉貴、太陽が本当に痩せたら。
俺の唯一の癒しなんだからな」
「やっぱり全然似てなくても、兄弟なんだな……二人とも」
「え、何それ姉貴なんかしたのやっぱり」
「…………」
黙ってうつむけしかない蒲公英をまた、黙って見る太陽。
「ま、まさか本当に別れたりしないよね……俺、頑張って痩せるから…………」
「だから、痩せる必要はないわよ…………アレは、キャラ作りだから太陽くんこそ、気にしなくていいって」
彼を予想以上に傷付けてしまったことを悔いた。
すると太陽の表情はいっきに晴れ、笑顔になる。
「ほ、本当」
うんうんと長い髪を上下するとやったと言わんばかりに蒲公英の細身に抱きついた。
「たんぽぽちゃぁん……じゃあ明日は絶対にデートしてよ」
「うん。分かった」
「絶対だからね、俺を優先させてよ。また、お願いされても断ってよ」
更に蒲公英を抱きしめる腕に力をいれると彼女の細身が砕ける様な奇怪な音を立てた。
「お、王子少し加減しろ姉貴 ヤワなんだから」
「ご、ごめんったんぽぽちゃん大丈夫!?」
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