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「たんぽぽちゃん……」
別れという言葉をジワジワと実感し目元が潤む。
涙を堪えた太陽の口から小さく絞り出された声。そんな太陽の声にも、彼女は眉一つ動かさない。
そんな様子の蒲公英に向かって今度は媚びるように呟く。
「たんぽぽちゃん……俺は、たんぽぽちゃんが好きだよ。だから離れたくない」
そんな甘い言葉を呟くと後ろから蒲公英を必死な様子で抱き締める。
誰にも渡したくない。離れたくない。この時太陽に自分の元にとどまってほしいという束縛が強く現れた。
あ、と微かに蒲公英が口が開く。
「あ?」
太陽が聞き返すと蒲公英は諭すように落ち着いた口調で話し始めた。
「甘えないでよデブ。もう21でしょ。 いい加減大人になって。あなたは私に固執しすぎ。もうそれに私は耐えられないの。
それと、もうあなたに私を束縛する権利はないわ。早くこの手を離してちょうだい。あなたのお腹、太りすぎて背中にあたって、とても不愉快なの」
『甘えないでよデブ』太陽にとって彼女からの言葉は罵倒ですらも嬉しい。しかし、今日ばかりは勝手が違う。しかも、彼女は太陽の体型のことをここまでハッキリと侮辱したことは無い。
いつもはもっと「ぽっちゃり」や「ふくよか」といった柔らかい言い方をする。
そんな様子に太陽は心臓を潰されるようなショックを受けた。
「た……たんぽぽちゃん」
間の抜けた声だけが出た。
今まで、優しかった彼女からの罵倒に言葉を失う。それと同時に少しばかり蒲公英の背中に当たっていたお腹を引っ込ませる。
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