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自分の部屋に戻って。
汚れたシャツを着替え終えたちょうどそのタイミングでドアがノックされた。
「失礼いたします」
執事長の中川だった。
「クリーニングに」
僕の手からシャツを受け取ると、渋面のままその場を動こうとしない。
「なあに?」
一礼してシャツのボタンを襟元まで留め、形を整えてくれる。
「和樹坊ちゃま、お困りのことはございませんか?」
中川は僕がこの屋敷にやってきた8つの頃からただ1人ずっと――。
「ないよ。でも――ありがとう」
僕の味方をしてくれた人間だ。
「香乃子さんがいらしたら、どんなにか坊ちゃんを心配なさるか」
そして母がこの屋敷で働いていた頃から懇意にしていた唯一の使用人だという。
「どうして?腹違いの姉に両手を縛られてケーキを食べさせられるから?それとも腹違いの兄に――いやなんでもない」
僕はクスッと笑ってベッドに腰掛けた。
「中川、僕はね」
眉間にシワをよせたままの中川に僕は囁く。
「この家にいられたらそれだけでいいと思ってるんだよ」
なにもかも――今となってはなんてことはない。
「私だけはいつでも和樹坊ちゃまの味方です。お忘れなきよう――」
「大丈夫、今でも十分助けてもらってる」
中川は来た時と同じ姿勢で一礼すると部屋を出て行った。
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