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この屋敷に住んで今年で10年になる。
先月。
僕は兄や姉と同じ名門高校を卒業し――そのまま付属の大学に進んだ。
だけど1ヶ月足らずで大学に行く気はうせ、誰にも相談せずに通信制の大学に編入手続きをしてしまった。
もっとも父親や兄弟に相談したところで、誰も僕の進路なんかに興味はもたないことは分かっていた。
僕は大学を出たからと行って、家業を継ぐわけでもないし。
天宮の家にいる限り、働かずしても生きていくのになんら困ることはない。
むしろこの家のみなが望んでいるのは、僕が当たり障りなく陰の存在としてひそやかに生息していることだ。
生前の母と同じように――。
「さて、これからどうしようかな」
1人ごちたところに、この屋敷には相容れないバイクの騒音が響いてきた。
窓からそっと見下ろす。
黒光する大型バイクが、門から屋敷までの長い道のりをあがってくるところだった。
ライダースジャケットを着て、颯爽と現れたのはこの家の次男――。
「薫お兄様、お帰りなさい」
僕は窓から手を振った。
フルフェイスのヘルメットを取り、まぶしげに僕を見上げる薫は――。
いつにもまして不機嫌そうだ。
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