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僕は兄弟の中では薫が一番好きだった。
彼が繊細で傷つきやすくもろいから。
そして僕と同じ――天宮の純血種じゃないからだ。
色素の薄い髪と瞳は異国の血が混じっていることを示している。
「薫お兄様、僕にバイオリンを教えてよ」
部屋に戻る途中の薫の足音を聞きつけ、僕は自室のドアを開けた。
「おまえに構ってる暇はない」
薫が背負っているのは、ライダースジャケットに不釣合いなバイオリンケース。
「貴恵お姉様がね、僕には音楽の才能がないっておっしゃるんだ。見返してやりたい」
薫は天宮の弟、僕らにとっては叔父にあたる人の息子だ――。
母親はイギリス人のバイオリニストだったらしい。
薫の父親は薫が3歳の時に事故死し、心を病んだ母親はそのまま自国へ帰ってしまった。
残された薫は天宮の家に引き取られ、その後今の父の養子となった。
「それに……征司がいい顔しないんじゃないか」
意味深に薫は僕をはねつける。
こいつ――気づいてるんだ。
「だから薫お兄様は僕にそっけないの?」
僕は薫の腕に触れた。
「――っ!」
薫は貞操を守る少女みたいに敏感に反応し、腕を引いた。
「腕に触られるのはイヤ?」
薫は目を曇らせて、足早に去って行く。
お互い様だ。
僕も知ってるよ――薫の秘密。
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