episode 1 すべては戯れ

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僕は兄弟の中では薫が一番好きだった。 彼が繊細で傷つきやすくもろいから。 そして僕と同じ――天宮の純血種じゃないからだ。 色素の薄い髪と瞳は異国の血が混じっていることを示している。 「薫お兄様、僕にバイオリンを教えてよ」 部屋に戻る途中の薫の足音を聞きつけ、僕は自室のドアを開けた。 「おまえに構ってる暇はない」 薫が背負っているのは、ライダースジャケットに不釣合いなバイオリンケース。 「貴恵お姉様がね、僕には音楽の才能がないっておっしゃるんだ。見返してやりたい」 薫は天宮の弟、僕らにとっては叔父にあたる人の息子だ――。 母親はイギリス人のバイオリニストだったらしい。 薫の父親は薫が3歳の時に事故死し、心を病んだ母親はそのまま自国へ帰ってしまった。 残された薫は天宮の家に引き取られ、その後今の父の養子となった。 「それに……征司がいい顔しないんじゃないか」 意味深に薫は僕をはねつける。 こいつ――気づいてるんだ。 「だから薫お兄様は僕にそっけないの?」 僕は薫の腕に触れた。 「――っ!」 薫は貞操を守る少女みたいに敏感に反応し、腕を引いた。 「腕に触られるのはイヤ?」 薫は目を曇らせて、足早に去って行く。 お互い様だ。 僕も知ってるよ――薫の秘密。
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