episode 16 蜜月

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「ありえないって顔してるな?」 賢くない弟に同情するように、征司は優しげに微笑んだ。 「いいんだ。色恋沙汰の最中は誰でも盲目になる。人生の決まり事だ」 明らかに何か企んでいる寛大さ。 細かい指先の動きは、我慢の限界に達しているサインだ。 「だから――」 芝居がかったジェスチャーで、征司は話の先を継いだ。 「盲目のおまえに、ひとつ忠告に来てやったんだ」 「忠告?」 「親切だろ?」 その顔からは笑みが消え 兄は再び――絶対者として僕の前に君臨する。 「今すぐ自分から天宮の屋敷に戻るなら、すべてなかったことにしてやってもいい」 それはすなわち 王の男に戻れという命令だ。 「――従わなかったら?」 僕の声は 「おまえも天宮家の三男なら、どうなるか分かるだろう?」 圧倒的な力の元にかき消される。 「九条敬を破滅させる――」 どこまでも冷静で 何事もないような声だった。 「大丈夫か?顔色がよくない。おまえは昔から船酔いするタチだからな――和樹」 自分がどれだけ 僕を掌握しているか――。 見せつけるように征司は花瓶に活けてある白薔薇を握りつぶした。
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