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「ありえないって顔してるな?」
賢くない弟に同情するように、征司は優しげに微笑んだ。
「いいんだ。色恋沙汰の最中は誰でも盲目になる。人生の決まり事だ」
明らかに何か企んでいる寛大さ。
細かい指先の動きは、我慢の限界に達しているサインだ。
「だから――」
芝居がかったジェスチャーで、征司は話の先を継いだ。
「盲目のおまえに、ひとつ忠告に来てやったんだ」
「忠告?」
「親切だろ?」
その顔からは笑みが消え
兄は再び――絶対者として僕の前に君臨する。
「今すぐ自分から天宮の屋敷に戻るなら、すべてなかったことにしてやってもいい」
それはすなわち
王の男に戻れという命令だ。
「――従わなかったら?」
僕の声は
「おまえも天宮家の三男なら、どうなるか分かるだろう?」
圧倒的な力の元にかき消される。
「九条敬を破滅させる――」
どこまでも冷静で
何事もないような声だった。
「大丈夫か?顔色がよくない。おまえは昔から船酔いするタチだからな――和樹」
自分がどれだけ
僕を掌握しているか――。
見せつけるように征司は花瓶に活けてある白薔薇を握りつぶした。
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