episode 17 魔王の罠

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episode 17 魔王の罠

中川からの電話――。 「どうなったって?」 帰りのポルシェの中、ハンドルを握る九条さんが僕を促す。 「うん。僕は無罪放免になったみたい」 「それはおめでとう――」 信号待ちの交差点で、身体を傾け九条さんは軽くお祝いのキスをする。 「ルカが警察に証言したんだ。僕は薬がなくなっていたことさえ知らなかったって」 「信じてもらえたんだ?」 「中川が言うには、彼は聖職者だから信憑性があったんだろうって」 僕は鼻で笑った。 あの大惨事を知ってる人間にとっては、とんだお笑い種だ――。 「誰にもお咎めはなし?」 ネクタイを緩めながら、九条さんは車を発車させる。 「可哀想な薬剤師が1人、クビになったみたいだけど」 結局は――。 薬局で薬が取り違えられていたなんて子供騙しな責任転嫁。 「お父様のご容態は?」 「うん、安定してるらしい」 誰かさんにとっては――芳しくない状況だろう。 「薫お兄様がね、入院してメンタルセラピーを受けてるみたい」 「その方がいいだろうね」 自分の身体を傷つけ、家に火を放った。 それだけでも十分な理由だけど――。 薫の心の闇は――実はもっと深い。 「じゃあもう、いつでも屋敷に戻れるんだ?」 九条さんの声はひどく乾いて聞こえた。 「――多分ね」 多分――?このタイミングで? いや本当のところすべては。 征司がチェスの駒を動かすより容易に 裏で根回ししているに違いなかった。
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