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真夜中のうちに
そっといなくなるつもり――。
そうすれば
たとえ傷ついても
彼を破滅から救える――。
九条さんが眠るのを見届けて、僕はそっとベッドから這い出した。
シャツに袖を通し、音を立てないようにベルトを締める。
とても8つも年上だと思えない――天使の寝顔。
柔らかい髪にそっと触れる。
小指の先に絡まった一筋の絹糸の束も、やがてさらりと指の間をこぼれた。
感情なんて押し殺すのは容易だと思っていた。
むしろ心配なのは僕がいなくなった後の彼の事だなんて――。
いくらうそぶいても、胸の痛みは消えない。
去り際に見つめるには、彼の寝顔はあまりにも無防備で後ろ髪をひかれた。
だけど今この時を逃したら――。
彼に茨の道を辿らせる事になるだろう。
征司がやると言ったら、蛇のように執拗に絡みついてくるのは間違いなかった。
そして今夜を逃したら
兄が僕を許すことも
決してないだろう――。
まさかこの僕が
愛を天秤にかける日がくるなんて――。
「愛してるよ――敬さん」
僕は静かに微笑むと彼に背を向けた。
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