episode 17 魔王の罠

2/13
前へ
/316ページ
次へ
真夜中のうちに そっといなくなるつもり――。 そうすれば たとえ傷ついても 彼を破滅から救える――。 九条さんが眠るのを見届けて、僕はそっとベッドから這い出した。 シャツに袖を通し、音を立てないようにベルトを締める。 とても8つも年上だと思えない――天使の寝顔。 柔らかい髪にそっと触れる。 小指の先に絡まった一筋の絹糸の束も、やがてさらりと指の間をこぼれた。 感情なんて押し殺すのは容易だと思っていた。 むしろ心配なのは僕がいなくなった後の彼の事だなんて――。 いくらうそぶいても、胸の痛みは消えない。 去り際に見つめるには、彼の寝顔はあまりにも無防備で後ろ髪をひかれた。 だけど今この時を逃したら――。 彼に茨の道を辿らせる事になるだろう。 征司がやると言ったら、蛇のように執拗に絡みついてくるのは間違いなかった。 そして今夜を逃したら 兄が僕を許すことも 決してないだろう――。 まさかこの僕が 愛を天秤にかける日がくるなんて――。 「愛してるよ――敬さん」 僕は静かに微笑むと彼に背を向けた。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3548人が本棚に入れています
本棚に追加