episode 17 魔王の罠

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すべてはうまくいくはずだった。 だけど純真無垢な天使が 寝たフリしてるなんて――。 「そういう言葉はちゃんと目を見て言ってほしいな――」 手首をつかまれ、僕は動けなくなる。 愛おしい手を振り払うこともできず、振り返ることもできない。 ただ 「夢だと思って見逃してくれない――?」 空しく笑った。 より一層、彼の手には力がこもる。 逃れようとするほど、ギリギリと絞まる手錠みたいに。 「イヤだね」 子供じみた言い草で九条さんが吐き捨てる。 「そうして諦めた物、今までだってあったけど何ひとつ戻っては来なかった――。だから離さないよ」 僕は心を決めて彼に向き直る。 「一方的にお世話になっておいて心苦しいんだけど――行かせてほしいんだ」 身をかがめて冷たく言い放つ。 疲れの見える目は潤んで闇に滲む。 それでも彼は首を横に振った。 「なんて言われようと君を手放すつもりはない」 深いため息――。 黙り込むと、夜中の静けさに耳が痛くなる。 「あのねえ……」 言いかける僕の唇を、強引に九条さんは塞いだ。 「んっ……!」 息が出来なくなるまで 僕の全身から力が抜け落ちるまで 脳幹さえ支配するほどに 紳士の唇は僕を乱暴に陵辱する――。 「言えよ――何があった?」 僕はベッドサイドに膝をついて座り込んだ。 愛の前には 人は無力だと 思い知らされる――。
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