episode 17 魔王の罠

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「船の中で何かあったんだろう?」 静かに僕を抱きとめると、九条さんは核心に迫る。 「船の中に」 僕は仕方なく口を割る。 「――征司お兄様がいた」 僕を抱きしめる身体が一瞬、強張る。 「大丈夫、何もされてない――ただ」 「ただ?」 危ないのは 君の方だ――。 「一度家に戻って来いって。君に言うと余計な心配するだろ?だから……」 「僕が寝ている隙に逃げ出そうとした?」 真実だけを求める彼の瞳に、僕の浮ついた嘘など通用しない。 「変だな、僕は嘘がうまいのに」 僕は観念して肩をすくめる。 「和樹――」 九条さんはいつもみたいに笑わない。 「君が今までどれだけ嘘を重ねてきたかは知らないけど、僕は騙されない。どんな時も君だけを見てるから」 その代わり、皮膚を破って心に突き刺さりそうな視線を僕に向ける。 「分かるね?」 僕の心臓をトントンとノックするその手を――。 僕は衝動的に握ってしまいそうになる。 「僕といたら――あなたは不幸になります」 本当は突き放さなくちゃいけないって分かっているのに――。 そんな不穏な言葉に重ねて、九条さんは笑い声を漏らした。 「何が不幸かは僕が決めるよ」 すべてを理解してなお 力強く僕を抱きしめて――。
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