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雑音交じりの不穏な空気の中――。
「坊ちゃま」
くぐもった中川の声がした。
「中川か――どうなってる?」
声を潜めるようにして、僕は聞き返す。
「私が直にこうして連絡差し上げられるのはこれが最後かと――」
「何?」
思ってもみない言葉が返ってくる。
「見張られているのです」
ピンときた。
「征司お兄様だね?」
征司は中川が僕に通じていることを知っている。
真っ先に、動きを封じようとしてるのだろう。
「――はい」
「それでお兄様、何を企んでる?」
声が途切れ、より一層低く中川が答える。
「長電話は危険です。坊ちゃま――薫様をお見舞い下さいますよう」
「薫お兄様を?」
「薫様にすべてをご伝言致します」
受話器越しに僕は肩をすくめた。
薫は信用できるような男じゃない。
だけど今はそれしか――方法はないようだった。
「分かったよ――」
それに僕
薫の弱みなら
ひとつ握っているしね――。
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