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郊外の療養施設までタクシーを飛ばす。
1時間ほどして。
どこまでも緑の芝生が広がるのどかな光景の中に、不釣合いな鏡張りのビルが姿を現した。
最上階の特別室に薫はいた。
「ありがとう――」
案内の女性に礼を言うと、サングラスを外して僕は薫に対面した。
あの夜以来だ――。
「やあ、薫お兄様。ご機嫌いかが?」
「――俺の具合いなんかに興味ないだろ?」
皮肉屋なところは相変わらずだけど、療養の成果が出てるのか――いつもよりすっきりして顔色がいい。
「そんなことないよ。透き通るような肌――羨ましい。よく休めてるみたいだね」
「おまえは――ここ最近じゃ一番疲れて見える」
薫の尖がった目が、僕の置かれた状況を面白がるように笑った。
「本当?血を吸われた夜よりも?」
僕は手にしていたガーベラのブーケを、小さな花瓶に無理矢理活けた。
あふれるほどの赤いガーベラ。
「おまえといると、また具合いが悪くなりそうだ」
薫は迷惑そうに頭を振った。
「そんなこと言わないで――中川に聞いてるでしょ?ちょっと困った事になってる」
「ちょっと?」
「いや、だいぶね。だから助けてよ」
「イヤだね。おまえらに関わるとろくな事がない――」
細い顎のラインがそっぽ向く。
「そう?でもそんなこと言ってると」
予想どおりの反応。
「薫お兄様だって困った事になると思うけど――」
僕には切り札がある。
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