episode 17 魔王の罠

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郊外の療養施設までタクシーを飛ばす。 1時間ほどして。 どこまでも緑の芝生が広がるのどかな光景の中に、不釣合いな鏡張りのビルが姿を現した。 最上階の特別室に薫はいた。 「ありがとう――」 案内の女性に礼を言うと、サングラスを外して僕は薫に対面した。 あの夜以来だ――。 「やあ、薫お兄様。ご機嫌いかが?」 「――俺の具合いなんかに興味ないだろ?」 皮肉屋なところは相変わらずだけど、療養の成果が出てるのか――いつもよりすっきりして顔色がいい。 「そんなことないよ。透き通るような肌――羨ましい。よく休めてるみたいだね」 「おまえは――ここ最近じゃ一番疲れて見える」 薫の尖がった目が、僕の置かれた状況を面白がるように笑った。 「本当?血を吸われた夜よりも?」 僕は手にしていたガーベラのブーケを、小さな花瓶に無理矢理活けた。 あふれるほどの赤いガーベラ。 「おまえといると、また具合いが悪くなりそうだ」 薫は迷惑そうに頭を振った。 「そんなこと言わないで――中川に聞いてるでしょ?ちょっと困った事になってる」 「ちょっと?」 「いや、だいぶね。だから助けてよ」 「イヤだね。おまえらに関わるとろくな事がない――」 細い顎のラインがそっぽ向く。 「そう?でもそんなこと言ってると」 予想どおりの反応。 「薫お兄様だって困った事になると思うけど――」 僕には切り札がある。
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