3547人が本棚に入れています
本棚に追加
薫は子供みたいにきょとんとして首を傾げた。
「あ、もしかしたら覚えてないんだ?それじゃ罪に問われても心神喪失かもしれないね」
「罪?」
眉間に深くシワを寄せると――薫は押し黙った。
「わあ、思い当たる節があるみたいだ」
僕はそっと薫の耳元に唇を寄せ、内緒話で囁いてやる。
「お父様に僕の薬飲ませたの、薫お兄様でしょう――?」
薫の横顔。
耳たぶまで真っ赤に、紅潮する。
「薫お兄様、あの夜自分で言ったんだよ――?ほら、征司お兄様がお父様の心臓が止まったって帰ってきた時さ。神様がやっと僕の願いを聞き入れたって」
生血を捧げてまで
叶えたかった願い。
「ねえ、お父様をそんなに憎んでるの?――殺したいぐらいに?」
薫は静かに目を閉じる。
やがて殺意を含んだ冷たい視線を僕に向けると
「おまえの欲しい情報は与えてやるから――とっとと帰んな」
言った。
あとは――暗黙の了解だった。
「いいね。お互いの為にもそれが一番」
薫の積年の恨みにもう一歩踏み込んでみたいけど――今はそんな余裕はない。
「征司兄さん――九条グループをホテル事業から撤退させるつもりだぞ?」
「それって――」
「当然、九条敬は代表取締役を解任されるだろうな――叩いて埃が出れば社交界からも追放される」
「九条さんは悪いことなんか何もしないよ」
それでも――薫は首を横に振る。
「重箱の隅をつつけば、いくらでも寝首をかく材料なんて転がってるもんさ――それにそいうの、征司兄さんの得意分野だろ?」
最初のコメントを投稿しよう!