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「幸運を――」
2本目の煙草に火をつけた薫は、部屋を出る僕に向かって囁いた。
僕に黒薔薇を投げ、永遠の憎しみを誓って去ったローズ・クィーン。
あの魔女の呪いが、こんな形で成就するなんて――。
いまや
九条さんの首を握っているのは
他の誰でもない
貴恵お姉様だ――。
「おっと……」
西日の差す廊下の先で、誰かにぶつかる。
「――すみません」
頭を下げる僕の目に、可憐なマーガレットの花束と――不釣合いなほど輝くロレックスが飛び込んでくる。
「考え事か――?」
顔を上げて一瞬、くらりと眩暈がする。
長いトレンチコートを王のマントのように翻し、征司が僕を見下ろしていた。
「征司お兄様――」
征司が何の理由もなく、こんな場所まで薫を見舞いに来るなんてとても思えない。
「電話まで盗聴するなんてやりすぎですよ」
鎌をかける僕を真正面から見つめて、征司は無言で微笑んだ。
「計画は順調みたいですね――」
憎たらしいほど自信に満ちたそのまなざしに、僕は噛みつく。
「なあ、和樹。あいつを助けたいか?」
最後通告を無視した僕を
罰するように露骨に――。
「なんなら今ここで、跪いて俺に許しを請うか?」
征司は僕を虐げる――。
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