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僕は征司の足元に膝をついた。
見栄もプライドも
身を救いはしないと知っているからだ。
「僕があなたに跪いて事が収まるなら、何度でも頭を下げます」
僕は征司の足元に両手をついて、微動だにしない王の瞳を見上げた。
僕がこんなマネして九条さんを庇うことで
一番傷つくのは自分だって
分かってるくせに――。
「おやおや、そうもいかないみたいだぞ?」
征司の眉がぴくりとはね上がった。
兄の前に跪く僕の背後から――コツコツと。
勇み足でこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
振り返るより早く、僕の身体が引き起こされる。
「好きになれないな」
「九条さん……?」
シルクのビジネススーツに身を包んだ九条さんが、凛として征司に対峙していた。
「そういう前時代的なやり方は――いささか高潔さに欠ける」
よく通る低い声が場を圧した。
「――騎士道ですか」
征司が仰々しく頭を下げた。
「なるほど。弟があなたに惚れたのも分かる気がします。どんな時も高貴で誇りを失わない。たとえ地獄に片足突っ込んでいる時でさえ」
口角上げて抜け目なく笑う腹黒い策士に――。
「愛のせいですよ。一番必要とする人に愛されているから――僕は揺るがない」
ロマンティストはもっとも痛烈な一撃を食らわせる。
危ないね
目に見えない火花で
僕は火傷しそうだった――。
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