episode 17 魔王の罠

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「年下の僕が言うのもなんですが、愛でまかなえるものなんてたかが知れているでしょう?」 征司は冷静に――だけど狡猾に九条さんの心に踏み込んでゆく。 「なのに賢いあなたがそうまでして――それも報われないと分かっている愛に執着するのか――僕には分かりません」 そう、たとえ何事も起こらなくったって――。 僕らの愛は一族の間はおろか 世間でも認められやしない類のものなのだ。 「あなたにもあなたの家にも輝かしい未来がある。もちろん過去の偉大な栄光も。それをあなたは今打ち砕こうとしているんです。そう――和樹を抱くその手でね」 征司の目は言葉にせずとも僕の心に痛いほど訴えてくる。 僕は彼にとっての疫病神だと――。 「失礼、もう行かないと」 僕らの横を通り抜けようとする征司の腕を 「待って」 九条さんが強引に引きとめる。 「マーガレットを病人に渡すのはよした方がいい。さよならを意味するからね」 わざとらしく微笑むと、征司はそっと花束に顔をうずめて呟く。 「そう言われれば――この花、なんだかすえた臭いがするな」 そのまま征司は 九条さんの手に愛らしい花束を握らせた。 「――あなたのホテルに飾るといい」 コートを翻し魔王は去ってゆく。 「ああ、そうだ――」 去り際ふと思い出したように振り返り 「明後日、おまえの大好きなお姉様が一時帰国なさるよ――」 牙をむいて笑った。
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