3551人が本棚に入れています
本棚に追加
「年下の僕が言うのもなんですが、愛でまかなえるものなんてたかが知れているでしょう?」
征司は冷静に――だけど狡猾に九条さんの心に踏み込んでゆく。
「なのに賢いあなたがそうまでして――それも報われないと分かっている愛に執着するのか――僕には分かりません」
そう、たとえ何事も起こらなくったって――。
僕らの愛は一族の間はおろか
世間でも認められやしない類のものなのだ。
「あなたにもあなたの家にも輝かしい未来がある。もちろん過去の偉大な栄光も。それをあなたは今打ち砕こうとしているんです。そう――和樹を抱くその手でね」
征司の目は言葉にせずとも僕の心に痛いほど訴えてくる。
僕は彼にとっての疫病神だと――。
「失礼、もう行かないと」
僕らの横を通り抜けようとする征司の腕を
「待って」
九条さんが強引に引きとめる。
「マーガレットを病人に渡すのはよした方がいい。さよならを意味するからね」
わざとらしく微笑むと、征司はそっと花束に顔をうずめて呟く。
「そう言われれば――この花、なんだかすえた臭いがするな」
そのまま征司は
九条さんの手に愛らしい花束を握らせた。
「――あなたのホテルに飾るといい」
コートを翻し魔王は去ってゆく。
「ああ、そうだ――」
去り際ふと思い出したように振り返り
「明後日、おまえの大好きなお姉様が一時帰国なさるよ――」
牙をむいて笑った。
最初のコメントを投稿しよう!