episode 18 クイーンの憂鬱 ①

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僕らは静止画のように、ただ無言でにらみ合った。 疲労感からくる苛立ちと。 先刻の魔王の攻撃を受けて。 少なくとも僕は――すっかり取り乱していた。 「こうなったのは僕のせいなのに……。1人で全部抱え込んで、自分だけ格好つけないでよ!」 気づくと僕は――得意の貧血を起こしそうな怒鳴り声を上げていた。 九条さんが拳を握って、ゆっくりと僕に背を向ける。 最悪だ――。 やがて 「格好だけでもつけておかないと――僕が崩れてしまいそうなんだ」 九条さんは苦しげにポツリともらした。 「情けない姿を君に晒したくはない。だけど――」 こちらを振り向いた彼は すっかりいつもの笑顔で――。 「いいんです――今後はあなたの許可なく僕はどこへも行きません」 僕は余計に 自分の存在を疎ましく思う。 「ありがとう。その言葉が聞けただけで僕はもう少し凛として立っていられる」 そんな僕の心も知らず、九条さんは壊れ物のように僕を抱きしめる。 「何があっても、君とだけは争いたくはない。いいね?」 うまく返事が出来ない。 「和樹――?」 征司が九条さんに向けて投げかけた詭弁にすっかり翻弄されて。 「九条さん、今度は僕を弾いて」 「……和樹」 「壊れるぐらいに激しく弾いてよ」 自分の存在価値も ようやく見出した愛という概念も 見失いそうなのは僕の方だった――。
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