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そうして僕らが
「和樹、ファの音で鳴いたね」
「やめてよ、絶対音感でもあるの?」
鍵盤の上で猥雑な音色を奏でている間にも――。
着々と魔王の触手は動いていた。
翌朝早く、九条さんはお父上である九条グループの会長に呼び出され部屋を出て行った。
インペリアルホテルでは、同業者による主要役員のヘットハンティングがはじまり、従業員の間に動揺が広がっていた。
歴史ある名門ホテルが
禁じられた愛のために
青白い顔した天宮家の妾の子のために
犠牲になろうとしていた。
「もしインペリアルが征司くんの手に渡ったら――全従業員は解雇され伝統は僕の代で途絶える」
夜遅く戻ってきた九条さんは、ここ数日で頬がこけるほどにやつれていた。
「君はどうなるの?」
「僕はいいんだ。どうなったって食べてはいける」
責任感と良心にさいなまれながらも――。
「だけど従業員を守ることができないとなると――父は僕を許さないだろうね」
九条さんは
愛をあきらめるとは言わない――。
「――やっぱり僕」
手にしたところで
誰にも認められやしない愛を。
「約束したよね?僕の許可なくどこにもいかないって」
時は僕らの戸惑いなんて我関せずに進んでゆく――。
そうして
いよいよ運命の鍵を握る
女王の帰還が迫ってきていた――。
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