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不穏な空気をはらんだまま2日たった。
相変わらず、九条さんは僕には何も話さないものの――。
危機的状況に変わりはなかった。
買収される危険を察した従業員の中には、我先に同業への移籍を申し出る者も出てきた。
だけど本当に九条さんを悩ませているのは、ホテルと一緒に骨を埋めるつもりでいる一流ホテルマンたちのプライドだった。
自分の愛を貫くことが――彼らの誇りを傷つける。
彼にはそれが耐えられない。
危機的状況――。
しかし誰も――たとえ九条グループの会長でさえ――どうしてこんな状況に陥っているのか分かってはいない。
だって
存在しないはずのホテルの秘密部屋に
天宮家の問題児が匿われていて。
九条家の御曹司と毎夜褥を重ねているなんて。
その上――。
今回の騒動はそれに嫉妬した天宮家の次期当主の復讐だなんて――。
誰も想像すらしないだろう。
唯一真実を知る僕に出来ることといえば――。
ホテルの隠し部屋で昼日中からシャンパンを空け、マカロン齧って九条さんの帰りを待つことだけだった。
1人でいると、虚しさだけが募った――。
頬杖をついたまま、食べ飽きたマカロンをマイセンの皿に積み上げる。
そして退屈、実に退屈だ――。
その時。
あくびをかみ殺す僕の元に、1本の電話がかかってきた――。
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