episode 18 クイーンの憂鬱 ①

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指定された場所へリムジンを向かわせる。 貸切の美術館は、当然ながら閑散として不気味な静寂に包まれていた。 木陰の螺旋階段を上り扉をくぐると――。 黄金に輝くクリムトの絵の前に立つ貴恵を見つけた。 「貴恵お姉様、ごきげんよう」 長くウエーブがかかった豊かな黒髪が振り返る。 ブラックドレスの胸元に、虹色に輝くオパールのネックレス。 「お久しぶりね、和樹」 僕は差し出された白い手に、そっと口づけた。 「相変わらず、お美しい」 往年のシネマ女優を思わせる正統な美しさは、パリに行って極められたようだ。 「あなたもますます妖艶ね――。九条さんはお元気?」 意味深に微笑んで、貴恵は僕を促し回廊を歩き出した。 「いいえ。どんな事態か――もうご存知でしょう?」 「あら、嫌味に聞こえたかしら?」 「まさか。少なくともまあ、僕と一緒の時はお幸せそうです――」 無言で絵画に見入っていた貴恵が、くすりと笑った。 「素直さが命取りになることもあるから気をつけなさいね、和樹」 「――覚えておきます」 僕はレディに一礼し、半歩下がってついて行く。 その場のすべてを 完璧に仕立てるかのように 細いハイヒールの踵が鳴り ほのかにエルメスの香水が香った――。
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