episode 18 クイーンの憂鬱 ①

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「それで――私に何を聞きたくて来たの?」 細く煙を吐き出すと、ようやく貴恵は僕の顔を真正面から見据えた。 「あなたこそ私の世間話に付き合うつもりで来た訳じゃないでしょう?」 完璧に均整のとれた美人の黄金比。 真珠のような肌と豊かな黒髪が溢れるほどの日の光を受けて輝く。 「率直に言います――。征司お兄様に譲るつもりの権利を、九条さんに返してあげてくれませんか?」 「なんですって?」 「お姉様、九条さんと婚約なさった時にインペリアルホテルの個人筆頭株主になったでしょう?」 「ええ」 「征司お兄様、インペリアルを買収してゆくゆくは九条グループのホテル事業を取り上げてしまうおつもりなの」 「そんな面倒なことをしても、天宮になんのメリットもないわ」 「――九条さんに対する個人的な制裁です」 貴恵は一瞬、僕に向かって氷のように冷たい視線を投げかけると 「どうしてそんなことになったのか、あなたの口から今一度はっきりおっしゃいよ」 どこか楽しむように口元だけで笑った。 「――不快じゃありませんか?」 「不快?」 「僕と九条さんの立ち入った話をしても――」 貴恵の瞳が黒水晶のような透明感を放つ。 「不快と言うなら――愛を知ったとたん、私にまで媚を売るようになったあなたには虫唾が走るわ」 その目は怖いほどの威圧感をもって 僕の前に再び女王の姿を晒す――。
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